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zoom RSS 伝鬼物語―――過去『愛シイ君ヘ』

<<   作成日時 : 2009/01/08 22:01   >>

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「おぅ、閃!なんだ、それは?」


町の道を歩いているとき、いつぞや幽霊探しに声をかけてきた少年が話かけてきた。


今にして思えば、目撃者の多かった幽霊の正体は美夜白だったのだろう。


彼女を見た今ならば、『この世のものとは思えないほど美しかった』という言葉も納得できる。


「これか?ちょっとな、ある人との思い出作りに使おうと思って」


閃は、そう言って手に持ったカメラと高そうな二つの銀製のロケットを持ち直した。


少し前ならば、気付かなかったことにして無言のままで立ち去っただろう。


だが、美夜白と会っていくうちに閃は変わっていった。


まだぎこちないものの、町の人々とも少しずつ打ち解けていった。


「閃…もしかして、ある人って。あの鬼か…?」


険しい表情とともに、そんな言葉が閃へと向けられる。


それに対して閃は気まずそうな表情を浮かべる。


ほとんど森の中にいる美夜白だが、どうしても必要なものができた場合は町まで買いにくる。


その際に、俺と普通に過ごしているのを見られたので、町のほとんど奴らは俺と美夜白が親しいことを知っているのだ。


ちなみに、町の連中から恐れられている美夜白が普通に買い物できるはずもなく、美夜白を恐れて店内に引っ込んだ店員が見つけられるような位置に代金を置いたあとに欲した商品を持って立ち去るのが美夜白の買い物方法だ。


鬼の美夜白がどうして金を持っているのかとも思ったが、曰く「ここに来る前の町で、鬼とばれる前に働いて稼いだんだよ」とのことだ。


「あぁ〜、ばれたか?そうだ、美夜白だよ」


閃の答えを聞いて、少年は一層顔を険しくする。


「閃!何考えてんだ、何度も言っただろ!アイツは人じゃないんだろ、鬼なんだろ!そんな奴のところに…」


「悪い、説教なら今度聞くから!」


閃は一回少年へ手を合わせると逃げるように走り去っていった。


少年は、そんな閃の様子を呆れたように見ていたが、すぐに別の場所へと立ち去った。


閃は軽い足取りで、美夜白の住む森へと向かう。


やがて森の入口にあたりまで来たとき、目的の人物が木に寄りかかって待っているのが見えた。


「閃、今日も来たのかい?君も暇だねぇ…なんてね、また来てくれて嬉しいよ」


そんなことを言いながら、花の咲いたような笑顔を浮かべて美夜白が言った。


美夜白の笑顔を見て、若干赤くなりながらも閃は小さく笑顔を返す。


「俺もだよ、美夜白。会えて嬉しいよ」


二人の距離が近づいて、美夜白は閃の持つものに気づいた。


「珍しいものを持っているね、どうしたんだい?高かっただろう?」


閃の持つカメラとロケットを覗きこむ。


珍しいものへの好奇心は美夜白は強いほうだ。


「いや、町で見かけてさ。安くなっていたから買っちゃった」


この言葉は、嘘だ。


町で見かけたのは本当だが、安くなってなどはいない。


一般人ならカメラや銀製の装飾品など高くて、まず買わない。


閃も、食糧を森で調達しているから、食費はかからないが裕福とは程遠い。


有り金をはたいて何とか購入できるような製品を買うことなど、普段なら絶対にしないだろう。


だが、今回はどうしても欲しい理由があった。


「美夜白、一緒に撮ろうぜ。その…旅立つ前の思い出作りにさ」


どこか寂しそうな笑顔で、語りかけると美夜白は驚いた様子でどこか気まずそうに視線をそらした。


「…気づいていたのかい?」


「まぁ、最近はずっと一緒だったからな。昨日、感慨深そうに町の様子を遠くで見ていたし」


美夜白は、たぶんこの町を近いうちに去る。


昨日、美夜白の様子を見て、そのことを確信した。


話はしなかったものの、一緒にいるうちに美夜白が何らかの目的があって旅をしていることは何となく実感していた。


そして、それはたぶん自分が止めた程度では、諦められないようなことだろう。


正直なとこ、町を出て行ってもいいから一緒に行きたいんだけどね…


その思いは心に留めていた。


思いを口にしたところで、美夜白に迷惑をかけるだけだろう。


自分が一緒に行ったところで、彼女の邪魔にしかならない…


だから、美夜白がいなくなる前に思い出に残る品が欲しかった。


だから、カメラとロケットを購入したのだ。


「閃…分かったよ、撮るとしようか」


閃の思いを察したのだろう、美夜白がキョロキョロと写真を撮るのに相応しい場所を探す。


やがて、美夜白はカメラを置くのに、ちょうど良い平ら岩を見つけると微笑みながら閃を手招きした。


「ここなら、いいだろう。撮ろう、閃」


「あぁ、ありがとな」


美夜白が見つけた、岩にカメラを置くとタイマーをセットし美夜白と並んだ。


文明の進んだ別の大陸では、このような思い出作りにも使われるらしいが、この大陸ではそこまで文明が進んでおらず、カメラをこのようには使わない。


この国で、カメラを作るには『記録』の神威を持つ神託者が己の能力を注ぎ、二、三回の写真を撮ることを可能にする。


別大陸のものと違い、即座に写真が印刷される反面、使いきったら『記録』の神託者の能力を注ぎこまねばならず、日常で使えるようなものではない。


それゆえに、この大陸においてカメラは基本的に鬼の情報を後世に残すために使用される。


このように使うことは、間違っているのだろう…いや、美夜白は鬼であるから、ある意味では正しいのか。


「ふむ、せっかくだし、二人の仲を写す意味でもキスしたところでも撮るかい?」


「なっ!!?」


ケタケタと笑いながら告げられた美夜白の言葉に、閃は赤面して慌てるがすぐにからかわれていると気づいたらしく、若干むくれたところでシャッターが下りる。


美夜白が近づいて、撮影された写真を眺める。


「あぁ、閃がむくれちゃった時に撮っちゃってるね。どうせなら、赤面しているところが欲しかったんだけど」


いたずらっぽく言いながら、閃を振り返る。


だが、未だに閃の機嫌が悪そうなのを見ると若干バツの悪そうな笑みを浮かべた。


「ごめん、ごめん、閃があまりに素直に反応するから思わずね。私が悪かったから機嫌を直しておくれよ」


美夜白が閃を拝むように手を合わせて、小首を傾げる。


その様子を見て、閃は苦笑しながらも、機嫌を直したようだった。


「まぁ、美夜白にからかわれるのも慣れてきたけどさ…こういうときは止めてくれよ、このカメラで写真撮れるのは三回だけだぜ」


そう言い残してから、閃は再びカメラのタイマーのセットへと向かった。


「三回とも撮ってしまっていいのかい?貴重なものだし、取っておいた方がいいんじゃ?」


「この辺じゃ、珍しい鬼なんて出ないから使用する機会もないし、売ろうとしてもどこも買い取ってくれない。だったら、今使い切っちまう方がいいさ」


最初の理由は本当だが、二つ目は嘘だ。


高いから敬遠するところも確かにあるが、買い取ってくれるところもある。


だが、このカメラも美夜白との思い出の品になるので、正直なところ売る気はなかった。


「ふ〜ん、それでは、あと二回撮ろうかね」


タイマーをセットする閃を少しだけ見てから、写る位置に移動すると閃を待った。


特に問題なく、タイマーをセットして駆け足でやってくる閃を美夜白は微笑みながら迎える。


二人が並んで、カメラの方を見る。


ジジジッというタイマーの進む音を聞きながら、自然と閃の口から言葉が零れた。


「美夜白…俺は、おまえに会えてよかったよ」


「私もだよ、閃。君に会えてよかった」


閃の言葉を聞いて、美夜白も静かに答えた。


どちらともなく微笑みを浮かべる二人。


こんな時間がいつまでも、続けばいいのに…その時二人のどちらもが、そう思っていた。


シャッターが下りる。


撮影された写真には、自然な笑顔を浮かべた二人が写っている。


二人は…とても幸せそうだった。


この先に、別れるとは思えないほどに。


「さてと、次が最後の一枚だね」


「あぁ、コイツに入れるのはこの写真がいいよな。よく撮れているし」


思い出したように、閃はロケットを取り出すと今取れたばかりの写真をその中へと入れる。


二人がうまく入るように入れるのに少し苦労したが、うまいこと収まった。


それから、閃はロケットの片割れを美夜白へと放る。


「じゃあ、私のロケットには、これから撮る三枚目をいれようかね」


手元に残る一枚目の写真を見て首を捻って悩む、美夜白。


「三枚目の出来によって決めればいいんじゃないか?いまロケットに入れた写真がいいなら交換するしさ」


「それもそうだね。では、さっそく最後の一枚を撮るとするかね」


そう楽しそうに言いながら、美夜白は閃と同じようにタイマーをセットすると撮影場所へと駆け足で戻った。


二人が並んで撮影すること三度目となる。


これが、たぶん美夜白との最後の思い出になるよな…


ぼんやりとそんなことを考えていた時、


「言うのが遅れたけど、ありがとね…私のために、ここまでしてくれて」


気にするようなことじゃないし、自分がやりたくてやっただけ…そんな風に、言葉を紡ごうとしたときに隣の美夜白に肩を叩かれる。


自然とそちらに顔を向け…唇を塞がれた。


目を閉じた美夜白の顔が目の前に広がる。


美夜白の白く絹のように滑らかな髪が視界にちらつく、美夜白の甘い香りが漂ってくる。


突然の出来事に、閃は身体を硬直させる。


その瞬間に、シャッターが下りる。


それから、どれほどの時間が流れただろうか?


自分にとっては永遠とも思える時間だったが、実際のところは大した時間は経っていないだろう。


ゆっくりと美夜白は唇を離した。


閃は、何をしていたのかを思い出したように急に赤面すると、何を言っていいのか分からずに視線を彷徨わせる。


一方で、美夜白は優しげに微笑んでいた。


ただ、若干頬が赤く、仕草もどこか恥ずかしがっている。


「その、あの…え〜と、美夜白?」


「一応、お礼のつもりだよ。気分を害したならごめんよ」


「いや、そんなんじゃない!ただ、突然のことで驚いて…」


赤くなって、しどろもどろに言葉を作ろうとしている閃を見てクスリッ、と小さく笑う。


そんな美夜白を見て、閃も困ったように、それでもどこか嬉しそうに笑った。


やがて、美夜白は撮影された写真へと向かう。


そこに写っているのは、硬直した閃と彼に唇を合わせている美夜白の写真。


美夜白は、一枚目の写真とそれを見比べて、悩む様子を見せながらも一枚目を懐に仕舞う。


それから、ロケットに今できたばかりの写真を入れた。


「私はこの写真を入れることにするよ。一枚目の写真ももらっていいかい?」


「それは、構わないけど…」


ロケットに収められた写真の内容が内容なので、閃は反応に困っている。


持っていて欲しいような、隠してしまいたいような複雑な感情を抱いているのが傍から見ただけで分かる。


そんな閃を気にすることなく、美夜白はしばらくの間ロケットに収まった写真を眺める。


それから、意を決したように閃へと向きなおった。


何故か美夜白の顔は赤くなっていた。


「閃、旅立つ前に言っておきたいことがあるんだ…」


「え〜と…え?」


頭を抱えて悩んでいた閃だが、美夜白の言葉を受けて向かい合う。


言葉を紡ぐ勇気を振り絞るように、少しの沈黙が流れる。


森の中を駆ける風が木々の間をすり抜け、しずかに音を奏でる。


降り注ぐ日光が揺れる木の葉で、キラキラと舞い散る。


揺れる美夜白の髪、映し出される美しい姿。


今まで、何度も見てきたはずなのに、そんな姿を見て閃の鼓動は高鳴っていた。


そして…


「閃、私はね…君のことが好きだよ」


笑顔のままに、紡がれた言葉。


一瞬、頭が真っ白になる。


言葉の内容が理解できない、俺はただ目の前の美夜白の優しい笑顔に見惚れていた。








今にして思えば、返事なんて決まっていたのに何故自分はすぐに答えなかったんだろう…


もし、俺が過去に戻れるならば、俺が戻るのはまちがいなくこの時だろう。


だって…笑顔の彼女に返事できたであろう、機会なんて…もう、ここにしかなかったのだから。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
前回のも読ませていただきましたw
やぱ尊敬します!!!!
オリジナルでこんなに素晴らしい文が書けるなんて・・・凄すぎマス!!!!
八雲も頑張ってもう一度書いてみようなぁ・・・^^;
次回も楽しみにしてマスw
八雲
2009/01/09 18:54
前回のも読んでいただけましたかw
ありがとうございます、そこまで褒めていただいてこそばゆい限りです。(^_^:)
八雲さんも書かれるなら、そのときは読ませていただきますね。(^^♪
次回もご期待に沿えるように、がんばります!
霧雨夢春
2009/01/11 19:02

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